環状糖類であるシクロデキストリンの空洞部に高分子が貫通した超分子ポリマーであるポリロタキサンは、医薬や生体材料としての応用も検討されている。

以前、メチル化 β-シクロデキストリン(Me-β-CD)を含有したポリロタキサン(Me-PRX)が細胞内で分解し Me-β-CD を放出することでオートファジー細胞死を誘導することが報告されたが、今回、細胞に対して積極的に Me-PRX をターゲティングし、選択的に Me-PRX によるオートファジー細胞死を誘導するための分子設計を目的に、Me-PRX に癌細胞に対する抗体を結合した抗体-超分子結合体が作成された。

これにより、癌細胞を認識し選択的に細胞内に取り込まれることが期待される。

抗体としては、悪性腫瘍に高発現するHER2に対する抗体であるTrastuzumabを選択し、Trastuzumab-Me-PRX 結合体を合成した。

Tras-Me-PRX の細胞内取り込み挙動を評価するため、HER2 陽性細胞株として BT-474 細胞、HER2 陰性細胞株として HeLa細胞を使用し、蛍光標識 Tras-Me-PRX を用いて共焦点顕微鏡観察を行った。

蛍光標識 Tras-Me-PRXはBT-474細胞の表面や内部より蛍光が確認されたことより、細胞表面のHER2を認識して結合し、細胞に取り込まれていることが確認された。一方、HER2認識能のないIgGを結合したIgG-Me-PRXやMe-PRX単体では細胞表面から蛍光は観察されなかった。

また、HeLa 細胞においては、蛍光標識Tras-Me-PRXが細胞膜表面や内部から観察されなかった。

蛍光標識Tras-Me-PRXの取り込み量の評価では、Me-PRX単体と比較して6~19倍取り込みが増加することが明らかになった。

Me-PRXに由来する細胞死を評価した結果では、Tras-Me-PRXはMe-PRXと比較して半数致死濃度(IC50)が 1/10~60まで低下することが明らかになり、これは、抗体により細胞内への取り込み効率が向上したためであると考えらる。

これらにより、抗体-超分子結合体の概念は、癌化学療法における新たなプラットフォームとしての応用が期待される。

この研究成果は国際学会誌 Journal of Materials Chemistry B(ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリーB)にオンライン版で発表された。