髄芽腫の確定診断は、他の癌種同様、病理診断である。

近年は、病理診断に加え、遺伝子発現パターン、ゲノムの変異やメチル化状態を詳細に解析することにより、大きく分けて四つのグループに分類できることが明らかになってきている。

そのうちの一つのグループであるソニック・ヘッジホッグ(SHH)型と呼ばれる髄芽腫は、SHHシグナルだけでは悪性腫瘍への形質転換は不十分であり、二次的な他の遺伝子のダメージが必要であることが明らかになってきた。

今回、ゲノム遺伝学や発生工学を駆使した学際的な研究チームによる更なる解析の結果が報告された。

まず、データベースからヒトSHH型髄芽腫において高頻度で変異している遺伝子をリストアップし、その中から特に他の腫瘍でも高頻度に変異が報告されているBCOR遺伝子に着目し、その変異箇所を詳細に解析した。

その結果、多くの症例において、BCORタンパク質のカルボキシル末端(C末端)が欠損していることが分かった。

これにより、小脳顆粒細胞でのみC末端を欠損したBCORタンパク質(BCORΔE9-10)を生み出すマウス(Atoh1-Cre/BcorΔE9-10マウス)を作出した。SHH型髄芽腫はPtch1欠損マウス4)の約30%で形成されるが、このPtch1欠損マウスとAtoh1-Cre/BcorΔE9-10マウスを交配(Ptch1欠損BcorΔE9-10マウス)すると、100%のマウスで3ヶ月以内に腫瘍が形成されるという結果が得られた。

Bcor遺伝子に変異があるPtch1欠損マウスの腫瘍と、Bcor遺伝子が正常なPtch1欠損マウスでの腫瘍では、前者の方が同じ細胞数を免疫不全マウスの脳に移植した場合に、早くにがんを形成する能力があることも明らかになった。

また、Atoh1-Cre/BcorΔE9-10マウス自身は髄芽腫を形成することはないため、BCOR遺伝子の変異そのものは小脳顆粒細胞をがん化する能力はなく、むしろSHH型髄芽腫の進展を促し、悪性度に関与することが明らかになった。

これらより、BCOR遺伝子に変異を持つ腫瘍ではIGF2によって増殖するがん細胞が多く存在するため、IGF2シグナルの阻害剤などの効果を検証することにより、遺伝子変異箇所に応じた治療法を確立することが可能になると考えられる。

本研究成果は、科学誌「Genes and Development」オンライン版に掲載された。