特定の標的DNA配列を認識してDNAに結合するタンパク質である転写因子は、遺伝子の転写スイッチを制御することにより、細胞の形態や性質に関与する。
例えば、転写因子GATA3は、DNAのGATAからなる標的DNA配列に結合し、遺伝子の転写スイッチを制御することにより、さまざまな細胞への分化の過程において重要な役割を担っている。
本来、GATA3が結合しうる標的DNA配列はヒトのゲノムDNA上には700万ヶ所以上存在するが、実際にはGATA3は細胞内でおよそ5万ヶ所にしか結合しない。
これは、転写因子GATA3のゲノムDNAへの結合は、細胞内では、染色体によるゲノムDNA折りたたみ構造であるクロマチンによって制御されていることを示唆している。
クロマチンの基盤構造であるヌクレオソームは、4種類のヒストンタンパク質からなるヒストン8量体にDNAが1.7回巻きつくことで形成されており、ゲノムDNA上に形成されるヌクレオソームは、転写因子のDNAへの結合を阻害することが明らかになっている。
今回、遺伝子の転写スイッチを制御する転写因子GATA3が染色体中で標的DNA配列を認識して結合するメカニズムが明らかにされた。
最新のクライオ電子顕微鏡を使った立体構造解析と、試験管内解析、ゲノム解析を行うことにより、パイオニア転写因子GATA3の調査を行った結果、GATA3がヌクレオソームを認識して結合する際には、ヌクレオソーム上での標的DNA配列の位置が重要であり、GATA3が2つあるDNA結合領域を巧みに利用することでヌクレオソームに安定に結合することが明らかにされた。
GATA3の遺伝子変異は乳がんや遺伝病であるHDR症候群に関与するため、これらの疾患の原因解明や治療法確立のための基盤となることが期待される。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。