癌細胞内には多くの染色体異常や遺伝子異常が存在し、その中には癌の発生・進展を直接的に促進するドライバー変異、機能的な意義の乏しいパッセンジャー変異が混在する。
このドライバー変異は元々癌細胞内に存在するわけではなく、最初に一つの異常が細胞に加わることで癌細胞の根元になるクローンが発生し、その後、ドライバーとして働く付加的・二次的な染色体異常や遺伝子異常が経時的・段階的に加わっていく。
そして、より悪性度の高いクローンが派生・増殖することで本来あの癌として成立し、さらにより高悪性度で治療抵抗性のサブクローンが発生する病態形成過程が明らかになってきている。
多発性骨髄腫は血液腫瘍の中で2番目に多い疾患であり、高齢化社会における有病率は増加傾向にあり、予後の悪い極めて難治性疾患である。
染色体や遺伝子の異常が、多発性骨髄腫癌の発生に深く関与するとされており、特に再発状態や、治療抵抗性獲得状態など難治状態では、治療初期には認めなかった高度の染色体異常が獲得されているため、クローン性進展によって病態悪化をもたらす染色体異常の獲得機序を明らかにすることは重要である。
一つの細胞が細胞分裂する場合、染色体は倍に増加し、これが正しく二等分されるために多くの細胞分裂制御分子が協調的に働くことが重要であり、BUB1 は、本来、そのような過程で重要な役割を果たす有糸分裂チェックポイント分子である。
今回、多発性骨髄腫において、病勢進行とともにBUB1 が正常の数倍以上に過剰発現し、むしろ、細胞分裂における染色体分配エラーを許容し、また細胞のクローン性増殖を促進することがわかり、適度の発現レベルでは正しく機能するBUB1が、過剰発現により染色体不安定性の亢進が惹起され、より高度悪性形質を有する腫瘍細胞の発生に関与することが明らかになった。
今後、多発性骨髄腫の多段階進展、クローン性進化の分子メカニズムの解明により新薬の開発が期待される。
本研究成果は、科学雑誌Cancersに掲載された。