フェナジンは窒素原子を含む複素環式化合物であり、これまで100種類以上の天然化合物および6,000種以上のフェナジン類化学合成が存在する。

N-アルキルフェナジノンはPseudomonas属やStreptomyces属などの細菌から単離された天然化合物であり、抗菌・抗真菌活性、がん細胞に対する細胞毒性、バイオフィルム形成、クオラムセンシング、免疫反応抑制など、さまざまな生物活性に関与していることが明らかになっている。

今回、これらフェナジンの簡便な合成法の開発、また塩化物の合成、さらにそれぞれの化合物の細胞毒性の評価についての報告がなされた。

N-アルキルフェナジノンを合成した後に塩素化を行うという2段階合成ではなく、N-アルキルベンゼン-1,2-ジアミンと目的の位置が塩素化された4-クロロ-1,2,3-ベンゼントリオールをワンステップで酸化的カップリングさせることを行った。

酸化剤として酸素、1,4-ベンゾキノン、o-クロラニルを使用した場合には酸素の場合に最も高い収率が得られ、添加物として塩基である炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムを添加した場合では炭酸セシウムの場合に収率が最も高くなることを発見した。

これにより、N-アルキルベンゼン-1,2-ジアミンと4-クロロ-1,2,3-ベンゼントリオール(または4-ブロモ-1,2,3-ベンゼントリオール)を酸素雰囲気下、炭酸セシウムを添加する条件で酸化的カップリング反応を行い、2位の炭素が塩素化または臭素化されたN-アルキルフェナジノンを計6種、合成することが可能となった。

特に、ラバンズシアニンの2位の炭素が塩素化された天然化合物(WS-9659 B)はこれまで天然由来のものしかなく、初めての化学合成例である。

次に、9種それぞれを添加した条件で、ヒト前骨髄性白血病細胞(HL-60)、ヒト肺腺がん細胞(A549)、正常なヒト肺線維芽細胞(MRC-5)をそれぞれ培養し、IC50を測定し、またMRC-5細胞に対するIC50をA549細胞に対するIC50で割った値(SI)をそれぞれ算出し、がん細胞に対する選択性の指標とすると、ラバンズシアニン(WS-9659 A)、WS-9659 B、マリニシアニンA、マリノシアニンB、マリノシアニンBの類縁体2種の計6種はそれぞれの細胞に対する細胞毒性が高いものの、SI値が0.49~1.79と低く、肺腺におけるがん細胞選択性は低いことが明らかになった。

一方、構造のより単純なN-アルキルフェナジノン類の3種は、細胞毒性は若干緩やかであるが、SI値が高く、特にピオシアニンはSI = 3.95、2-クロロピオシアニンはSI = 5.80と顕著ながん細胞選択性を示すことが明らかとなった。

がん細胞選択的な細胞毒性を有する化合物が見出されたことから、今後、新規の抗がん剤としての応用を目指した開発研究が進むことが強く期待される。

本研究は、米国化学会発行の学術誌「ACS Omega」に掲載され、掲載号のSupplementary Coverに選出された。