転写因子 NRF2 は、抗酸化応答の塩基配列に結合して転写を活性化するタンパク質であり、生体防御に関わる様々な遺伝子を活性化することで解毒代謝や酸化ストレスに対する重要な役割を果たしている。
肺がんや頭頸部がんでは、特定の遺伝子変異により NRF2 が異常に活性化し、その悪性化を増悪させているため、異常活性化状態のNRF2 の機能を阻害することにより、がん細胞の増殖を抑制し、抗がん剤の効果を改善できることが明らかになっている。
しかし、NRF2 阻害剤は全身の正常な細胞の NRF2 も抑制されてしまうため、様々な副作用の発生が懸念される。
今回、特定の遺伝子変異により NRF2 が異常に活性化している NRF2活性化肺がん細胞と普通の肺がん細胞とで、NRF2 の比較検討についての報告がなされた。
RNA シークエンスと ChIP シークエンスという網羅的解析手法を組み合わせて、NRF2 が制御する遺伝子発現とエンハンサー 形成を比較すると、NRF2 活性化肺がん細胞では、NRF2 がもう一つの転写因子CEBPB と協調的に働くことで、通常とは異なる遺伝子座に結合してエンハンサーを形成し、その遺伝子の転写を活性化することが明らかになった。
特に、NOTCH3 遺伝子座で NRF2 が結合するゲノム領域はエンハンサーとして働き、NOTCH3 タンパク質を増加させることにより、がん幹細胞性を増強することも明らかになった。
すなわち、NOTCH3 を阻害することにより、悪性度の高い NRF2 活性化肺がんのがん幹細胞性を抑制できる可能性が示唆された。
今後、抗癌剤耐性を示すNRF2活性化がんに対する有効な治療戦略になることが期待される。
本研究成果は、英国の学術誌Nature Communications誌に掲載された。