カンプトテシンは、カンレンボク(喜樹)という樹木から発見された、細胞毒性を有するキノリンアルカロイドで、DNA酵素1型トポイソメラーゼの働きを阻害することにより、抗がん剤として使用されている。

カンプトテシン生合成の仕組みを調べるための研究材料として、カンレンボクと同じくカンプトテシンを生産し、奄美群島、沖縄群島、八重山群島などに自生しているチャボイナモリのゲノム解析結果が報告された。

チャボイナモリの全ゲノム情報を解読し、さらに他の植物ゲノムとの比較を行った。

チャボイナモリの染色体数(n=11)と同数の11個のDNA配列(スキャフォールド)に連結された高精度の全ゲノムの配列情報を取得した。

この配列情報を解析することによってアルカロイド生合成遺伝子が近傍に集まった遺伝子クラスターを発見し。このクラスターでは、酵素遺伝子の機能の多様化に関わる遺伝子重複が認められた。

他の植物ゲノムと比較した結果、類縁のアルカロイド生産植物のゲノムには共通の中間体合成酵素遺伝子が存在することが明らかになり、また、この中間体合成酵素遺伝子に似た遺伝子が、アルカロイドを生産しない植物ゲノムにも存在していた。これらより、中間体合成酵素遺伝子に似た遺伝子が進化の過程で変化してアルカロイド中間体合成酵素遺伝子が出現することにより、チャボイナモリにアルカロイドを生産するしくみが出現したことが示唆された。

以上から、進化の過程で共通の化合物の生産からそれぞれ異なる化合物を生産するように順に進化してきたことが示唆された。

これらより、薬になる成分を生みだす植物についての理解を深め、その仕組みを利用して抗がん剤原料の持続的生産に応用展開されることが期待される。

本研究は、Nature Communicationsに掲載された。