がん治療には、外科的手術以外に抗がん剤治療や放射線治療など様々な方法がある。近年、正常細胞を傷害せず腫瘍のみを標的破壊するように改良したがん治療用ウイルスを抗がん剤として用いる治療法が開発されている。

ウイルス療法の作用機序は、ウイルスを感染させたがん細胞・組織内で増殖伝播することによって直接腫瘍を溶解し、その後、抗腫瘍免疫応答が賦活化され全身に治療効果を発揮する方法である。

この抗腫瘍免疫応答の賦活化が、遠隔転移しているがんに対しても全身性に治療効果を発揮する画期的ながん治療法であると考えられる。

ウイルスが応答しない遠隔にある腫瘍への治療効果はその効果が弱まる傾向にあり、腫瘍内の免疫抑制環境などにより、投与局所においても十分な治療効果が得られない場合も存在する。

今回、MDRVVを細胞中で複製させている際に細胞融合しながら増殖するウイルスを発見し、その単離に成功した。

単離されたウイルスは、全ゲノムシークエンス解析によってウイルスの持つK2L遺伝子にナンセンス変異が生じていることが判明し、Fusogenic Oncolytic Vaccinia Virus(FUVAC)と名付けられた。

細胞融合を生じることなく増殖する従来のMDRVVと細胞融合を生じながら増殖するFUVACの抗がん効果を比較するため、マウス大腸癌CT26細胞を両側の皮下に移植した担癌マウスモデルにおいて、各ウイルスを片側の腫瘍内にのみ投与した。

その結果、MDRVVを投与した局所の原発巣での治療効果はあったが、MDRVVを投与しない遠隔転移巣では十分な治療効果が得られないことが明らかになった。

しかし、FUVACは、投与側の腫瘍だけではなく非投与側の腫瘍に対しても、MDRVVと比べ有意な治療効果を発揮した。

組織学的および免疫学的解析により、ウイルスを投与した腫瘍内において細胞融合が惹起され、広範な腫瘍溶解が生じ、その後、免疫原性細胞死が誘導され、腫瘍内の制御性T細胞、腫瘍関連マクロファージや骨髄由来免疫抑制細胞が減少することで免疫抑制環境が改善され、原発巣だけでなく転移巣への細胞傷害性T細胞の浸潤が高まることでより効果的に抗腫瘍免疫応答が賦活化されることが明らかになった。

次に、MDRVVまたはFUVACの単独、およびMDRVVと抗PD-1抗体の併用では十分な治療効果が得られなかったが、FUVACと抗PD-1抗体の併用では投与側腫瘍を完全に退縮させ、半数のマウスで非投与側腫瘍も完治させたため、免疫チェックポイント阻害剤との併用に適していることが示唆された。

今後、次世代がん治療用ワクシニアウイルスの早期実用化を目指して、免疫チェックポイント阻害薬との併用も含めた新たな治療法開発が期待できる。

本研究の成果は、国際科学誌Molecular Therapyのオンライン版に掲載された。