卵巣がんは、早期発見が困難であり、進行がんの状態で発見された場合は抗がん剤治療の適応となるが、やがて抗がん剤に対して耐性を獲得し効果が消失する。

卵巣がんの中でも、特に明細胞がんは、抗がん剤耐性が高いという特徴をもっており、抗がん剤治療は困難を伴う。

マイクロ RNA は、がんの悪性化という根幹に関与することが分かっており、治療に使用した場合に耐性を伴わない。

今回、卵巣明細胞がんにおけるマイクロ RNA の研究報告がなされた。

初発の卵巣明細胞がん検体 20 例と再発の卵巣明細胞がん検体 5 例を比較したマイクロ RNA シーケンス解析が施行された。

その結果、初発がんと再発がんでは異なるマイクロ RNA 発現パターンが示唆された。再発がんの 5例中 4 例で、X 染色体長腕 27.3 番領域にあるマイクロ RNA クラスターに属している 4 つのマイクロ RNA(miR-508-3p、miR-509-3p、miR-509-3-5p、miR-514a-3p)が著明に低下していることが明らかになった。

さらに、進行期の明細胞がんにおいて、卵巣病変と大網転移病変のマイクロRNA の発現パターンの解析では、大網転移病変においてもそれらの 4 つのマイクロRNA の発現が低下していた。

これにより、上記のマイクロ RNA は、転移や再発といった明細胞がんの悪性化に関与していることが示唆された。

次に、明細胞がんの細胞株を用いた上記マイクロ RNA の機能解析を行った。

その結果、miR-509-3p および miR-509-3-5p を強制発現させると、がん細胞のシスプラチン感受性が増強され、細胞死が誘導された。

さらに、次世代シーケンサー解析により、これらのマイクロ RNA の強制発現により YAP1 遺伝子の発現が低下することも明らかになった。

また、YAP1 の発現低下や阻害剤使用によりシスプラチン感受性は増強され、YAP1 の発現は、再発明細胞がん検体においては発現上昇していることも明らかになった。これらより、明細胞がんにおいて、miR-509-3p と miR-509-3-5p は、YAP1 を介した抗がん剤耐性に関与しているが示唆された。

今後は、同定したマイクロ RNA の機能や、そのターゲット遺伝子の機能をさらに追及することにより新たな卵巣がんの治療法の開発につながることが期待される。

本研究は、国際学術誌出版社であるシュプリンガー・ネイチャー社の「Oncogene」に掲載された。