がん細胞は遺伝子変異を繰り返し、血中内においてがん細胞クラスター状態で遠隔臓器に到達して転移巣を形成するポリクローナル転移機構により増殖・進展を行う。

今回、遺伝子変異や悪性度が異なるがん細胞の集団による転移巣形成についての報告がなされた。

大腸がん発生と悪性化に重要な4種類のドライバー遺伝子(Apc(A)、Kras(K)、Tgfbr2(T)、Trp53(P))の変異を、さまざまな組み合わせで導入した、腸管腫瘍由来オルガノイドを樹立した。

これら4種類の変異を持つAKTP細胞は高い転移能を獲得し、1~2種類の変異を持つA、AK、AT、AP細胞は非転移性のがん細胞である。

それぞれを緑色および赤色蛍光で標識して、単独でマウス脾臓に移植すると、AKTP細胞だけが肝臓に転移巣を形成した。

また、非転移性細胞とAKTP細胞を同時に脾臓へ移植すると、ATまたはAP細胞とAKTP細胞の双方から構成されるポリクローナル転移巣が肝臓に形成された。

これにより、非転移性がん細胞でも、転移性がん細胞と一緒にポリクローナル機構により転移し得ることが示唆された。

さらに、AKTP細胞単独による肝転移巣では、がん細胞が血管周囲の肝星細胞を活性化させて線維性の転移ニッチを形成することが明らかになった。

AKTP細胞が転移ニッチを形成した後でAP細胞を移植すると、非転移性のAP細胞単独でも微小転移巣を形成し、転移性がん細胞による転移ニッチ形成が、非転移性がん細胞の生存と増殖に関与する可能性を示唆している。

これらより、がん細胞クラスター内の転移性サブクローンが転移ニッチを形成することにより、非転移性がん細胞を含んだポリクローナル転移巣を形成することが明らかになり、がん転移機構の理解に重要な知見であると考えられ、新しい大腸がん転移の予防・治療薬の開発に活用されることが期待される。

本研究成果は、英国科学誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載された。