ヒトの消化酵素である胆汁は、主に脂肪の消化吸収機能に関与している。

胆汁は、肝臓で生成され、一旦胆のうに貯留し、脂肪食の摂取に伴い、適時総胆管から十二指腸内に放出される。

胆のう上皮細胞から発生した悪性腫瘍が胆のうがんであり、転移や浸潤しやすく、周囲に重要な血管が存在する複雑な部位に発生するため、進行胆のうがんの根治的手術は難しく、全体での5年生存率は25%と極めて難治性のがんである。

胆石症や慢性胆のう炎が発生リスクとされており、アジアや南米において高い頻度で発生し、本邦では年間に約8,200人が発症している。

発生要因としては、がん抑制遺伝子TP53の変異など、さまざまな遺伝子変異が同定されているが、病理学的にも遺伝学的にも多様性に富んでおり、ゲノムが関わる発がん機構はまだ解明されていない。

今回、北海道大学病院で切除手術を行った36例の胆のうがんの切除サンプルと正常組織からDNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて、全ゲノムシーケンス解析またはエクソーム解析を行い、遺伝子変異についての報告がなされた。

また、同時にサンプルからRNAを抽出し、非コードRNAを含む網羅的RNA発現解析も行い、胆のうがんの分子生物学的特性についての調査がなされた。

その結果、胆のうがんは、間質に活性化した線維芽細胞と免疫抑制機能を持つ免疫細胞が多く観察された場合に予後不良、再発傾向が認められた。

また、遺伝子発現のパスウェイ解析を行ったところ、TP53遺伝子、ELF3遺伝子、SMAD4遺伝子の変異が発見され、予後不良症例では、TGF-βシグナル関連分子の変異が多数検出され、これらの変異を介して、TGF-βシグナルパスウェイが活性化し、EMTへの誘導、腫瘍微小環境の形成、免疫抑制の誘導が行われていることが示唆された。

今後、これらの胆のうがんゲノム情報を用いて、胆のうがんの詳細な分子生物学的分類が進展し、その分類に応じて治療方針を決定するがんゲノム医療の発展が期待できる。

本研究成果は、科学雑誌『Cancers』オンライン版に掲載された。