胃がんのほとんどは、ピロリ菌感染による萎縮性胃炎からやがて癌化することによって発生する。一方、スキルス胃がんの発生要因としては、ピロリ菌との因果関係は明らかでなく、好発年齢も、胃がんの高齢者に比べ、若年女性に多く、原因は明らかでない。

また、スキルス胃がんは腹膜播種を起こしやすく、播種巣の進展は予後に深く関与しており、播種巣を制御することは、予後を改善する上で重要な課題である。

今回、腹水中の老化細胞が、胃がん腹膜播種の増大を引き起こす新たなメカニズム解明に重要であることが報告された。

スキルス胃がん患者の術後検体から樹立した、がん関連線維芽細胞(CAFs)を用いて、ヒトの炎症環境を模倣した実験を行ったところ、CAFsはがんとその周囲の細胞から放出される炎症性物質であるサイトカインによって、細胞増殖の停止、いわゆる細胞老化を起こしていることが明らかになった。

CAFsのエピゲノムの遺伝子解析を行ったところ、実際に細胞老化を起 こしたCAFsでは特徴的なヒストン修飾の変化によって、細胞老化関連物質を形成する遺伝子の活性化が生じていた。

その結果、老化CAFsでは、がん進展を促進する老化関連タンパク質を持続的に分泌しており、さらにスキルス胃がん患者のがん性腹水において多様な細胞分画の解析を実施し、腹水中にも細胞老化を起こしたCAFsが存在することが解明された。

播種巣のがん細胞だけでなく、細胞老化を起こしたCAFsをターゲットとした新たながん腹膜播種の治療戦略が期待できる。

本研究成果は、米国Cell press社が刊行する国際的科学雑誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載された。