放射線治療は、手術や抗がん剤治療と並ぶがんの3大治療法の一つである。

放射線治療によるがんの治療効果は、培養細胞を用いた生物実験に基づき開発された細胞応答モデル(予測モデル)を使用して、放射線の量(線量)と細胞殺傷効果(細胞死)の関係を推定することにより評価可能である。しかし、基礎細胞実験では均質な細胞集団を使用した実験が多い一方、臨床で取り扱うがん組織は不均質な細胞集団であるため、細胞実験により決定されるモデルパラメータでは臨床の治療効果の再現は不可能である。

今回、国立大学法人弘前大学大学院保健学研究科、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、原子力基礎工学研究センター大学院保健科学研究院らは、“がん幹細胞を考慮することで臨床の放射線治療効果の再現が可能な予測モデルの開発”に世界で初めて成功した。

不均質な細胞集団の中でも高い抵抗性を示すがん幹細胞に着目し、その割合を測定し、不均質な細胞集団を考慮した細胞殺傷効果予測モデル(integrated microdosimetric-kinetic (IMK) モデル)を開発することで、細胞実験データから臨床の治療効果が再現できると考え、がん幹細胞の存在を考慮した新たな細胞応答モデルを開発し、その有用性を検証するために、肺がん(非小細胞がん)の治療効果の解析を進めた。

その結果、開発したモデルを用いることで、細胞実験で測定される肺がん細胞の細胞殺傷効果、ならびに臨床における肺がん症例の治療効果を同時に再現することに成功した。

これにより、共通のモデルパラメータを用いて細胞実験による基礎研究成果と臨床成果を再現するためには、腫瘍組織に約8%存在するがん幹細胞の存在の考慮が重要な鍵であることを明らかにした。

今後は、肺がん以外のがん組織に対しても適用し、不均質な細胞集団の考慮に対する重要性を明らかにできると期待される。

本研究成果は、『Radiotherapy and Oncology』に掲載された。