がん細胞は高い栄養要求性があり、L-グルタミン(L-Gln)や L-アスパラギン(L-Asn)などの欠乏は、肺がん、乳がん、白血病細胞、前立腺がんなどの増殖や転移を抑制する。

細胞外 L-Asn を低下させるL-アスパラギナーゼ 5は急性リンパ性白血病(ALL)の治療薬として承認されているが、治療に伴う細胞内アスパラギン合成酵素(ASNS:asparagine synthetase)の発現上昇による耐性が大きな課題になっている。

ASNS は、Asn の de novo 合成 3を担い細胞内タンパク質合成の律速酵素であり、肺がん、前立腺がん、膵がんなどで高発現しており、がん分子標的として非常に注目されている。

ASNS は 561 残基のアミノ酸からなり、N 末側(1-216)にグルタミナーゼドメイン、C 末側(217-561)にシンターゼドメインを有しており、基質となる L-アスパラギン酸(L-Asp)と ATP を反応させ活性なβ-aspartyl-AMP 中間体を生成すると同時に、L-Gln の加水分解によって生じたアンモニアと反応させ、四面体型遷移状態を経て L-Asn を生成する。

これまでに、基質 L-Asp や遷移状態を模倣した阻害剤やプラチナ製剤などが ASNS 阻害剤として報告されているが、低い細胞膜透過性や化学構造の多様性の少なさなどの問題を抱えている。

今回、京都大学大学院薬学研究科、理化学研究所環境資源科学研究センター 、近畿大学医学部 、慶應義塾大学大学院理工学研究科らの研究グループは、アスパラギン合成酵素(ASNS)を阻害する微生物代謝産物ビサボスクアールA(Bis A)を見出し、非小細胞肺がんに対する抗がん剤シーズとしての有望性を明らかにした。

アスパラギン合成酵素(ASNS)は、L-グルタミン(L-Gln)を窒素源として、L-アスパラギン酸(L-Asp)からL-アスパラギン(L-Asn)を生合成する酵素であり、L-Asnのde novo合成における律速酵素である。

ASNSは、肺がん、大腸がん、急性リンパ性白血病などで高発現が報告されており、がんの悪性化・再発や薬剤耐性に寄与する分子標的として注目されているが、既存のASNS阻害剤は低い細胞膜透過性や化学構造の多様性の少なさなどの問題を抱えている。

本研究グループは、新規ファーマコホアを有するBis Aを単剤処理あるいはL-アスパラギナーゼやmTORC1阻害剤と併用することで、顕著な抗がん活性を示すことを明らかにし、がん代謝特性を標的とする新規抗がん剤開発に繋がることが期待される。

本研究成果は、「 European Journal of Pharmacology」のオンライン版に掲載された。