がん免疫療法が、難治性がん治療に対する新しい治療法として注目されている。

キメラ抗原受容体導入 T 細胞療法、すなわちCAR-T細胞療法は、免疫細胞である T 細胞を患者本人の血液から取り出し、CAR という人工遺伝子を外から導入することで、がん細胞を攻撃できるように加工した薬を使う治療である。

しかし、さまざまながんに対してはまだ十分な効果が確認されておらず、さらに効果を高めるために T 細胞を改造する必要がある。

細胞の性質は約 20,000 種類存在する遺伝子の働きによって決まるため、CAR-T 細胞が、

がんに対する攻撃を続ける中で徐々に機能が落ちる場合があるが、その際に特定の遺伝子が働いていることがわかっている。

これらの遺伝子を欠失させることで、細胞の機能を長く保ち、治療効果を高められる可能性があり、遺伝子の特定の領域を狙って切断し、その遺伝子の機能を欠失させられる CRISPR/Cas9 という技術が注目されている。

しかし、遺伝子によっては標的部位の設計が難しいことがあり、研究開発を進める上で妨げとなる。

今回、慶應義塾大学医学部先端医科学研究所がん免疫研究部門と同石井・石橋記念講座(拡張知能医学)らの共同研究グループは、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)というシステムを使って遺伝子を欠失させる際の、効率的な設計アルゴリズムの開発に成功した。

本研究ではT細胞内の遺伝子領域への“アクセスのしやすさ”を定量的にスコア化して、さらに他の設計ツールと組み合わせることで、遺伝子のどの領域を狙えば効率的な改変が可能かを予測する手法を開発した。

任意の遺伝子について自動で狙う部位を設計できるようにプログラムを構築し、多くの研究者が活用できるようにウェブ上で一般公開した。

本研究成果は、英国オックスフォード大学出版局によって発刊される Nucleic Acids Researchに掲載された。