癌治療において投与した薬剤が目的とする腫瘍組織に到達することを目的とした治療法すなわちDDS(Drug Delivery System)が脚光を浴びている。
しかし、生体に投与した遺伝子治療薬は、速やかに肝臓にて代謝され消失してしまうため、十分量が標的である腫瘍組織へ到達しないことが課題となっている。
今回、この肝臓からの消失は、肝内毛細血管である肝類洞の血管壁への遺伝子治療薬の吸着が原因となるため、肝類洞に選択性を持つ生体適合性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)でコーティングすることに成功したことが報告された。
この一過的かつ選択的な肝類洞壁のコーティングは、肝類洞壁に吸着する正に帯電したオリゴリシンに、2本のPEG鎖を結合したコーティング剤を開発することで可能となることが明らかになった。
また、この2本PEG鎖からなるコーティング剤は、類洞内皮に結合した後、6時間以内に胆汁へと排泄された一方で、1本のPEG鎖をオリゴリシンに結合したコーティング剤は、類洞壁に長時間留まっていることもわかった。
非ウイルスベクターの遺伝子治療は安全性や経済的コストの観点から期待されており、プラスミドDNA搭載スマートナノマシンâを用いた悪性腫瘍の遺伝子治療が行われているが、このシステムにコーティング剤を用いたところ、ナノマシンの肝類洞壁への吸着が抑制され、結果的に大腸癌へのDNA導入効率が向上することが確認された。
このように、コーティング剤を用いることで、安全性を担保しながら、遺伝子治療薬の活性を飛躍的に高めることができ、今後、遺伝子治療薬の効果が高まるだけでなく、医療費の削減および副作用の低減に結びつくことが期待できる。