慢性炎症に罹患した組織においては、正常組織とは異なった組織の再構築が生じている可能性が示唆されているが、発癌リスクの上昇と遺伝子変異の観点から、どのような再構築が生じて、発癌に関わるかについては未だ十分に解明されていない。
潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患のひとつで、免疫機構の異常により免疫細胞が腸管細胞を攻撃することにより腸管に慢性的炎症を引き起こす疾患であり、長期間の炎症により癌化する確率が上昇することがわかっている。
今回、潰瘍性大腸炎において、長期間の炎症に暴露された大腸粘膜と、これを背景として発症する大腸癌の大規模なゲノム解析を通じた潰瘍性大腸炎の発症メカニズムの解明が報告された。
潰瘍性大腸炎の長期罹患患者の大腸上皮は、大腸癌で認められる遺伝子変異の他に、炎症に関わる IL-17 シグナル経路の遺伝子変異を獲得した細胞が増加し、直腸では全体の 50~80%の面積がこれらの遺伝子変異を有する細胞によって置き換わっていることが明らかになった。
潰瘍性大腸炎患者の大腸粘膜で高頻度に認められる IL-17 シグナル経路の遺伝子のうち、NFKBIZや ZC3H12Aの変異は大腸癌ではほとんど認められないため、これらの遺伝子に変異を獲得した上皮細胞は発癌しがたいことが証明された。
これにより、潰瘍性大腸炎の発症メカニズムの解明に資するとともに、NFKBIZやZC3H12Aを標的とした潰瘍性大腸炎や大腸癌のこれらの分子を標的とした新規治療薬の開発が期待される。
本研究成果は、国際学術誌「Nature」にオンライン掲載された。