乳癌は、女性罹患癌種のなかで罹患率・死亡率ともに最も高い悪性腫瘍のひとつである。
乳癌は,癌細胞の表面に発現する受容体によって4つのタイプに分けられ,それぞれのタイプによって治療法が異なる。
トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は,乳癌の治療標的となる三つの受容体が欠如しており、全乳がんの約 20%を占める。
TNBC は他のタイプの乳癌よりも高い再発率、再発後の急速な進行を認め、予後が不良である。
TNBC に対する薬剤治療としての抗癌剤に対して耐性を獲得するため、効果的な治療法・治療薬の開発が強く期待されている。
免疫細胞であるマクロファージは、腫瘍に浸潤した場合には免疫抑制性に偏るため、腫瘍におけるマクロファージによる免疫抑制を解除することが癌治療法の鍵となる。
マクロファージを免疫抑制性に変える因子であるIL-34 というタンパク質が、癌細胞から産生され、癌の悪性度に関与し、進展・発育を促進する。
しかし,TNBC における IL-34 の役割については明らかでなく、今回、TNBC の腫瘍組織における IL-34 の発現、TNBC の病因と予後における IL-34 の役割、さらに、IL-34 が TNBCにおいて治療標的となり得るかについての検討が報告された。
全乳がん患者を四つのタイプ別(TNBC,HER2+, Luminal A, Luminal B)に分類し、各タイプの乳がん組織における IL-34 の遺伝子発現を比較し、その発現による各タイプの乳癌症例の予後への影響について調査した。
次に,IL-34 を発現するマウス TNBC 細胞株である 4T1 細胞を用いて、IL-34 の TNBC における役割について調べた。
まず IL-34 を欠損させた 4T1 細胞を樹立し,IL-34 の有無で細胞の増殖能に差があるのかを,試験管内で調べ、さらに、IL-34 の免疫系への作用を評価するために,IL-34 を発現する細胞と欠損させた細胞を実験マウスの皮下に注入し、生体内での腫瘍形成能と免疫細胞への影響を評価した。
各タイプの乳癌症例のうち、TNBC 患者の腫瘍組織でのみ IL-34 が高発現していた。また、IL-34 高発現TNBCとIL-34低発現TNBCにおける生存率を解析すると、IL-34 高発現TNBCにおいて生存率が有意に低いことが確認された。
さらに、IL-34 の発現は,他のタイプの乳癌よりも TNBCで高く、IL-34が単独で TNBC患者の予後不良因子となることが明らかになった。
TNBC 細胞が産生するIL-34がマクロファージの性質を免疫抑制性に変化させることにより腫瘍内に免疫抑制環境を構築し,促進していることが示唆された。
本研究により、TNBC局所におけるIL-34の発現診断を行い、治療としてIL-34阻害薬投与を行うという新しい癌個別化治療が発展することが期待される。
本研究成果は、Breast Cancer誌にオンライン掲載された。