中枢神経原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma; PCNSL)は中枢神経(脳・脊髄)及び眼内に限局した悪性リンパ腫である。
全身性悪性リンパ腫と比較して予後不良であり、標準的治療であるメソトレキセート(MTX)と全脳への放射線照射併用による治療は、再発率が高く、遅発性に白質脳症を誘発することで中枢神経機能を悪化させる。
PCNSLに高頻度に存在するMYD88/CD79B変異などの分子異常はがん増殖の主要なシグナルであるNF-kB経路を活性化させ、PCNSLの発生・進行に重要であると示唆されており、今回、免疫不全マウス脳内にPCNSL細胞を移植することでPCNSLのヒト由来脳腫瘍モデル (patient-derived xenograft; PDX)を樹立し、このモデルを通じた病態の解明と治療標的分子の同定について報告された。
まず、手術標本の細胞化処理を行い免疫不全マウス(SCID Beige)マウス脳内に移植することにより、12種類のヒト由来PCNSL細胞株(PDX)モデルの樹立をした。
また、病理学的検討、分子遺伝学的解析により、PDXモデルが患者腫瘍の遺伝型、表現型を忠実に再現するモデルであることも確認された。
これらのPDXモデルを使用し、患者検体-PDX間、更には異なる継代数のPDX-PDX間における遺伝子異常の変化を解析するため、Epstein-Barrウイルス(EBV)陰性PCNSL例に対し全エキソン解析を行った。
その結果、患者検体-PDX間において90%以上の遺伝子異常が保持されており、また腫瘍のドライバー遺伝子候補を探求したところ、MYD88、CD79B、HIST1H1Eの3つの遺伝子変異が検出された。
特に、MYD88 L265P変異は全体の80%、CD79B変異は全体の60%に認められ、CD79B変異を有する腫瘍にはいずれもMYD88変異が検出された。
次に、サブクローンの多様性について評価を行うと、MYD88やCD79B変異は早期ゲノムイベントであることが判明し、サブクローンはPDXの継代を通じて動的変化を示これらにより、MYD88やCD79B変異はPCNSL治療における有力な標的遺伝子異常であると示唆された。
PCNSLに対し導入された分子標的薬(BTK阻害剤)はNF-kB経路の抑制を通じて抗腫瘍効果を発揮すると期待されており、これらの分子標的治療後の不応性や抵抗性の問題も存在するため、今後は、PDXモデルを用いた次世代の治療法の開発に向けた研究の必要性があると思われる。
本研究は、『米国癌学会誌 Cancer Research』に掲載された。