肺癌は本邦において死亡原因第一位の癌腫であり、肺癌の約 20%は、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)という遺伝子の変異が原因である。
EGFR 変異肺癌は、変異したEGFR からの生存シグナルで増殖しておるため、変異 EGFR の機能を抑える分子標的薬オシメルチニブが有効であるが、試用期間・回数とともに耐性が生じ、効果が減弱・消失する。
AXLタンパク質は生存シグナルを補うことで抵抗性細胞を生み出し、耐性を発生させるため、AXL低発現のEGFR 変異肺癌においてはオシメルチニブの効果が発揮されない。
今回、分子標的薬オシメルチニブに対し腫瘍細胞の一部が抵抗し生き残るメカニズムを解明・報告された。
AXL低発現の EGFR 変異肺がん細胞がオシメルチニブに対して耐性癌として再発するメカニズムとしては、インスリン様増殖因子 1 受容体(insulin-like growth factor-1 receptor: IGF-1R)のタンパク質量を増やし、増えた IGF-1R が生存シグナルを補うことにより、肺癌細胞の一部が抵抗性細胞として生存していた。
さらに、抵抗性細胞ではオシメルチニブ処理に応答して、転写因子である FOXA1が IGF-1R の転写を亢進して IGF-1R のタンパク質量を増加させることも発見された。
動物モデルおいては、オシメルチニブに短期間 IGF-1R 阻害薬を併用することにより、腫瘍が消失し、治療中止によっても再発をほぼ完全に防げた。
これにより、分子標的薬に IGF-1R 阻害薬を短期間併用することで、副作用なく腫瘍をほぼ根治できることが明らかになった。
また、FOXA1 機能阻害薬の開発により、インスリン受容体には作用せず、IGF-1R のみを阻害し分子標的薬の効果を増強できる可能性が期待される。
本研究成果は、英国科学誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載された。