血液脳関門通過型ナノ粒子によるmicroRNA治療
脳は生体にとって極めて重要な臓器であるため、毒性を有する物質が脳内に流入すると生命機能を維持することができません。
これを防ぐために、脳外血管から流入する血液と脳組織液との間の物質交換を制限する血液脳関門(blood-brain barrier)が存在します。
この血液脳関門により、脳にとって重要な物質は脳外血管から脳内に通過しますが、逆に抗がん剤のような毒性を有する薬剤は通過しません。そのため、脳腫瘍に対して有効な抗がん剤は非常に少ないのが現状です。
当院のナノ粒子封入microRNAは、脳に対して毒性を有さず、血液脳関門を通過し、脳内に存在する悪性腫瘍(癌)に対して集中的に到達し死滅させることが可能です。[下図]
治療対応脳腫瘍
●脳腫瘍の種類について
原発生脳腫瘍には他の癌腫のようにステージ分類やTNM分類はなく、悪性度(グレード)により1から4までに分類されています。
悪性度1は、ほとんど良性です。悪性度2から4は、悪性脳腫瘍です。
悪性度1について
悪性度1の脳腫瘍の代表的なものとして髄膜腫・下垂体腺腫・神経鞘腫や小児の小脳や視神経に発生する毛様状星細胞腫があります。
良性脳腫瘍の多くは手術で摘出すれば再発は稀ですが、残存組織があると腫瘍が再発することがあります。
悪性度2~4について
悪性度2の脳腫瘍の代表的なものは、神経膠腫(グリオーマ)です。
神経膠腫は、星細胞腫(アストロサイトーマ)と乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ)に分類され、星細胞種と乏突起膠腫の混在した乏突起星細胞腫も存在します。
小児の脳室壁周辺に発生する上衣腫(エペンディモーマ)も悪性度2です。
ただし、悪性度2の神経膠腫である星細胞腫・乏突起膠腫・乏突起星細胞腫や上衣腫が退形成性を有すると悪性度3になります。
最も悪性度の高い神経膠腫である膠芽腫(グリオブラストーマ)は悪性度4です。日常生活機能が温存できる範囲で手術摘出し、残存組織に対しては放射線治療などを施行します。
小児に多い胚細胞腫や髄芽腫もグレード4の悪性脳腫瘍ですが、化学療法により治癒(寛解)することが期待できます。
転移性脳腫瘍について
上記以外に、脳以外の臓器に発生した腫瘍が脳(頭蓋内)に転移した転移性脳腫瘍があります。
- (悪性度1)
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髄膜腫22.8%
下垂体腺腫18.6%
(非機能性10.4%・GH産生性3.6%・PRL産生性3.6%・ACTH産生性1.0%)神経鞘腫10.1%
頭蓋咽頭腫2.5%
血管芽腫1.4%
類上皮腫0.9%
神経節膠腫0.4%
- (悪性度2)
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神経膠腫4.4%
(星細胞腫2.8%・乏突起膠腫および乏突起星細胞腫1.6%)上衣腫0.6%
髄膜腫1.3%
中枢性神経細胞腫0.5%
脊索腫0.4%
- (悪性度3)
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退形成性神経膠腫5.5%
(星細胞腫3.8%・乏突起膠腫および乏突起星細胞腫1.7%)退形成性上衣腫0.4%
髄膜腫0.3%
- (悪性度4)
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膠芽腫11.1%
中枢神経系悪性リンパ腫3.5%
胚細胞腫1.8%
髄芽腫0.8%
※数字(%)は脳腫瘍全体に占める割合です
●脳腫瘍の原因について
発症の原因は遺伝子の変異とされていますが、現在も不明です。
●脳腫瘍の症状について
- ①慢性的な頭痛:初期では20%、進行すると70%に発生します。起床時に最も強く、時間の経過により少し改善する傾向があります。
- ②吐き気や嘔吐:頭痛とともに発生頻度の高い症状です。
- ③視神経の異常:腫瘍の増大により視神経が圧迫され視力低下などの症状を引き起こす場合があります。
これ以外に、発症部位によって、しびれ・手足の麻痺や言語障害・聴覚障害なども出現します。
●脳腫瘍の検査について
検査の基本は画像診断であり、CTやMRIによる診断が一般的です。
●脳腫瘍の治療について
手術
原則的には、全ての腫瘍を手術により切除・摘出することです。 良性腫瘍は正常組織との境界が明瞭であるため、手術で完全切除できるものが多く、治癒が期待できます。 悪性腫瘍は、手術による摘出により、生命維持や日常生活における運動野・言語野に影響を与える場合はできる限り脳機能を温存するために以下の手術法を用います。
- ①術中ナビゲーション
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安全に手術を行いながら、腫瘍が存在する部位を術中に把握するために、精度の高いナビゲーション装置を使用します。
- ②術中モニタリング
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運動機能や感覚機能をSEP(体性感覚誘発電位)やMEP(運動誘発電位)である術中脳波や筋電図でモニタリングしながら手術を行います。
- ③覚醒下手術
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言語野や運動野の位置を同定し、運動機能や言語機能を温存するために、低濃度麻酔により意識を保ち会話などを行いながら覚醒下手術を行います。
- ④術中MRI
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腫瘍摘出の確認のため術中にMRI撮影を行うこともあります。
- ⑤術中生検
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腫瘍の一部を採取した組織を、病理診断によって遺伝子変異、悪性度を診断し、手術後の放射線治療や薬物療法の方針を決定します。
放射線治療
高エネルギーのX線などの放射線を照射して、腫瘍を障害する方法です。
単独あるいは手術による残存腫瘍に対して薬物療法と組み合わせて行われます。
良性腫瘍は、正常と腫瘍組織の境界が明瞭であるため、正常な脳組織に放射線を照射せず、腫瘍だけにピンポイントに照射する定位放射線照射があります。
ガンマナイフ(γ線)、サイバーナイフ(X線)という特殊な装置を使用します。
放射線治療直後に出現する副作用としては、放射線照射部位に起こる皮膚炎・脱毛・中耳炎・外耳炎などや、照射部位とは関係なく起こるだるさ・吐き気・嘔吐・食欲低下などがありますが、照射後約1カ月以内で消失します。
薬物療法
下垂体腫瘍では薬物療法だけで腫瘍が小さくなるものもあります。
また、術中生検により、中枢神経系悪性リンパ腫や胚細胞腫と診断された場合は、無理な手術摘出をせず薬物療法を行う場合が多いです。
悪性腫瘍に多く見られる強い脳浮腫による頭痛や手足の麻痺などさまざまな症状に対してはステロイド治療が行われ、脳浮腫が改善し症状が劇的によくなることがあります。
悪性脳腫瘍に対しては、細胞障害性抗がん剤や分子標的薬などが用いられることがありますが、血液脳関門により脳内への通過が遮断されるため現状では有効な化学療法剤は少ないのが現状です。
当院のナノ粒子封入microRNAは、血液脳関門を通過し、脳内に存在する悪性腫瘍(癌)に対して集中的に到達し死滅させることが可能です。