膵臓癌をはじめとするさまざまな癌は、複数の遺伝子変異が組み合わさり細胞の増殖能が上昇して生じることが明らかにされていたが、癌患者の治療経過を大きく左右する癌の転移については、遺伝子変異は関わらないことも報告されてきた。
しかし、癌細胞がどのように転移能力を獲得するか、その仕組みには未だ不明な点が多い。
転写抑制因子であるBACH1は、赤血球系ではグロビン遺伝子の発現抑制に関わり、それ以外の細胞では、HO-1などの酸化ストレス応答に関与する遺伝子の転写を抑制する。
今回、転移能力が高い膵臓癌細胞では転写因子BACH1タンパク質の働きが上昇していることが発見された。
逆に、BACH1の働きを低下させることで、膵臓癌細胞の転移能力を低下させることも明らかになり、BACH1の活性化状態が膵臓癌患者の治療経過の効果的な指標になることも確認された。
本研究により膵臓癌が転移する機序の一端が解明されたことで、今後、膵臓癌の病態の解明や治療法の開発が更に進むことが期待される。
また、肺癌を始めとするさまざまな癌種でもBACH1が重要であることが報告されつつあり、癌の転移における研究・解明が一層進展すると思われる。
本研究の成果は、米国癌学会の学術誌Cancer Researchオンライン版にて発表された。