本邦における軟部肉腫の発生数は、年間1500名ほどで希少がんに分類される。

様々な年齢層に発生するが、近年では高齢者に多く発生する傾向がみられ、転移症例では5年生存率が30%以下と極めて悪性度が高い。

化学療法は、従来より使用されているアドリアマイシンの奏効性が最善であり、二次治療に用いる新規薬剤(パゾパニブ、エリブリン、トラベクテジンなど)でも奏効性が低く、新たな治療法開発が必要とされている。

今回、研究グループは、患者ゲノム情報を解析するがんクリニカルシークエンス法に加えて、トランスクリプトームレベル(RNAや塩基配列の解析)で遺伝子発現の均衡状態を網羅的に解析することで新たな治療標的を明らかにし、進行軟部肉腫の新規個別化医療を開発することを目的とした研究が報告された。

進行軟部肉腫(平滑筋肉腫15例、悪性末梢神経鞘腫瘍5例、高悪性粘液線維肉腫4例)の手術検体の腫瘍部におけるがんの原因となるチロシンキナーゼ遺伝子の全てに対し、トランスクリプトームレベルの遺伝子発現の不均一性を指標とした網羅的な探索を、米国で開発された遺伝子発現解析システム「NanoString nCounter」を用いた。

その結果、新規チロシンキナーゼ融合遺伝子として発見したMAN1A1/ROS1融合遺伝子を(1/15例(7%)の)平滑筋肉腫の発がん因子として同定した。

さらに、MAN1A1/ROS1融合遺伝子の癌化能を検証すると、この融合遺伝子は肺がんで既に同定されているCD74/ROS1融合遺伝子より高いことが明らかになった。

そのため、肺癌に使用されているマルチキナーゼ阻害薬のクリゾチニブを癌化能を示した細胞株とその腫瘍を持つマウスに使用したところ、がん細胞の増殖を顕著に抑制することを発見した。

クリゾチニブが軟部肉腫に対する新規治療標的薬になりうることを発見し、網羅的なトランスクリプトームレベルでの遺伝子解析が軟部肉腫に有効な治療標的の探索に有用であることが示唆された。

NanoString nCounterを用いることでトランスクリプトーム解析の有用性が確認できたことにより、今後はより精度の高いMSK-IMPACTを用いた臨床試験により、希少がん軟部肉腫に対する個別化医療の展開が期待される。

本研究は、米国の整形外科治療の科学誌「Clinical Orthopaedics and Related Research 」オンライン版で発表された。