疾患の発生には細胞内タンパク質の変化によるものが多く、治療薬として標的タンパク質に対する阻害剤があるが、多くのタンパク質は薬剤によって阻害できない。そのため、疾患原因タンパク質を細胞内で分解して除去する「標的タンパク質分解誘導剤」が、創薬ターゲットの範囲を大幅に広げる革新的な創薬コンセプトとして脚光を浴びている。
標的タンパク質分解の原理は、細胞内にもともと備わっているユビキチン・プロテアソーム系という機構を利用するものである。
細胞内で不要になったタンパク質は、「ユビキチン」と呼ばれるタグを付加され、タグ付けされたタンパク質はタンパク質分解酵素「プロテアソーム」によって分解される。
これらを利用して、疾患原因タンパク質に結合する薬剤と、ユビキチン化酵素(CRL)に結合する薬剤とを連結させたハイブリッド型の化合物を用いれば、疾患原因タンパク質とユビキチン化酵素とを近接させ、強制的にユビキチン化を引きおこして分解を誘導することが可能となる。
今回、その詳細な分子メカニズムの解明についての報告がなされた。
細胞を分解誘導剤で処理した時に標的タンパク質に結合してくるタンパク質を探索し、CRLとは別のユビキチン付加酵素であるTRIP12を同定し、また、TRIP12は、CRLが標的タンパク質にユビキチンを付加した後で結合してくることが明らかとなった。
次に、TRIP12を持たないがん細胞では、分解誘導剤で処理した際の標的タンパク質の分解が遅れ、さらに、この分解が引き起こすがん細胞の細胞死も抑制されていた。CRLとTRIP12はともにユビキチンを付加する酵素であるが、タンパク質分解の目印であるユビキチン鎖を合成する際の鎖の形状が異なっており、CRLとTRIP12が協同作業することで、特殊な形状の鎖を合成することがわかり、TRIP12 はタンパク質分解に適した形状のユビキチン鎖の合成を手助けする酵素であることが明らかになった。
今後、TRIP12 を活性化することが可能となれば、がん治療薬の効果を高めることができ、がんで高発現する疾患原因タンパク質を分解し、薬の効果を高効率化・高精度化していくことが期待される。
本研究成果は、米国科学誌『Molecular Cell』オンライン版に掲載された。