胃癌の発生には、ヘリコバクター・ピロリが深く関与している。

近年、外科的治療後の予後にもヘリコバクター・ピロリの有無が影響していると考えられ、ヘリコバクター・ピロリが陽性の進行胃癌患者は予後が良いことが報告されている。

今回、岩手医科大学医歯薬総合研究所医療開発部門と米国ジョージメイソン大学の共同研究グループは、北海道・東北の 12 施設から集めた 658症例について解析を行い、ヘリコバクター・ピロリによる感染により誘導される宿主免疫応答を介して予後の改善に関連していることを明らかにした。

これらの症例は、ヘリコバクター・ピロリ陽性群では、陰性群と比較して統計学的に有意な差をもって生存率が良いことが明らかになっている。

また、臨床病理学的因子および免疫組織学的指標をヘリコバクター・ピロリ陽性・陰性に分けて比較を行ったところ、「PD-L1 の発現」と、「術後補助化学療法に用いられる抗がん剤 S-1 の用量」の2つの因子が術後の「無再発生存期間」と関連していることが明らかになった。

加えて、胃切除検体で PD-L1 の発現がなく、かつ S-1 術後化学療法を使用した群に絞り込むと、ヘリコバクター・ピロリ陽性群の 5 年無再発生存率が陰性群と比較して 28%高いことがわかった。

また、ヘリコバクター・ピロリ陽性群の 5 年無再発生存率が高いという傾向は、一般的に予後が良くないと想定される S-1 術後化学療法の用量を減量した群でも顕著に認められた。

これらにより、進行胃癌患者がヘリコバクター・ピロリ陽性かつ胃切除検体の PD-L1 発現がない場合、術後補助化学療法後の予後が良好であったことから、ヘリコバクター・ピロリ感染が術後化学療法に有利な宿主免疫応答を惹起したことが示唆された。

今後は、進行胃癌におけるヘリコバクター・ピロリ感染状態と胃切除検体の PD-L1 発現の判定を組み合わせることで、抗癌剤の薬剤選択および投与量決定における補助的役割を担う可能性がある。