がん治療における抗がん剤には、細胞内DNAを障害する薬剤や増殖を抑制する分子標的剤などさまざまな種類が開発されている。
ただ、治療開始時効果が認められても、やがて耐性を持ち効かなくなる。
今回、神戸大学大学院工学の研究グループは、がん細胞の増殖に必要な酵素「チロシンキナーゼ」に着目し、チロシンキナーゼと反応するとがん細胞の中身を物理的に固めて殺傷するといった作用機序を持つ新規抗がん剤分子を設計・作製した。
この分子は物理現象を用いるという全く新しい抗がんメカニズムを持つため、抗がん剤耐性株が出現しないことが期待されている。
一部のがん細胞で過剰に産生されているチロシンキナーゼという酵素を利用し、がん細胞の内部をゲル化することで抗がん効果を発揮する新規抗がん剤の開発を行った。
「C16-E4Y」というペプチド脂質分子は、チロシンキナーゼと反応してリン酸化されるペプチド配列(E4Y) と炭素原子が直線状に16個連なった炭化水素鎖 (C16) から構成される。
C16-E4Yはがん細胞内でリン酸化されると分子同士が互いに集合し、球体やひも状、網状といった構造体を形成する (自己組織化) 性質を持ち、がん細胞の中身は流動性を失い、ゲル化する。
本研究成果は、2022年度第71回高分子学会年次大会において広報委員会パブリシティ賞を受賞し、また本研究成果をまとめた論文を英文科学雑誌に投稿中である。