ウイルスなどの病原体やがん細胞に対する免疫応答において司令塔とも呼ばれる必須の細胞である樹状細胞は骨の中の骨髄に存在する造血幹細胞という細胞に由来する。
造血幹細胞が複数の前駆細胞段階を介して樹状細胞を産生することが知られている。
このような細胞分化の過程で、その細胞に特徴的な遺伝子発現パターンが形成されることが重要である。
そのためには、転写因子と呼ばれるDNA 結合性のタンパク質が、DNA の「エンハンサー」と呼ばれる遺伝子発現を制御する領域に結合する必要がある。
エンハンサーは遺伝子から離れて存在する場合も多く、エンハンサーが遺伝子の発現を調節するにはクロマチン高次構造の変化を介して遺伝子と物理的に近接する必要がある。
そのためエンハンサーによる遺伝子発現制御機構を理解するにはクロマチン高次構造の解析が必須になる。
しかし、樹状細胞が生体内で分化する過程において、クロマチン高次構造がどのように変化するのかについては全くわかっていない。
今回、横浜市立大学大学院医学研究科免疫学 および熊本大学国際先端医学研究機構らの研究グループは、国立感染症研究所、米国国立衛生研究所との共同研究で、感染防御やがん免疫に関わる樹状細胞の分化成熟におけるDNA折り畳み構造の変化とその分子メカニズムを解明しました。
細胞が分化していく過程において、その細胞にとって重要な遺伝子のクロマチン高次構造が大きく変化することがわかり、この知見を応用することで、例えば白血病細胞など病的な前駆細胞のクロマチン高次構造を解析し、その性状を正しく理解することで、新たな診断・治療法開発につなげられる可能性がある。
また、樹状細胞は病原体やがんに対する免疫応答に必須の役割を担うが、その過剰あるいは異常な活性化は自己免疫疾患を引き起こしたりがんを増悪させたりすることも知られている。
本研究における解析データは、それらの疾患の理解や治療法の開発に役立つことも期待される。
本研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載された。