ヒトラクトフェリン(hLF)は、多くの哺乳動物の乳に含まれており感染防御機能をもったタンパク質である。
自然免疫で機能するhLFは、抗腫瘍、抗炎症、抗酸化作用などの機能を有することから、バイオ医薬品としての応用が期待されている。
hLFとヒト血清アルブミン(HSA)の融合により、hLFの体内安定性およびがん細胞の増殖抑制作用が向上するという研究成果を踏まえ、今回、東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科らの研究グループは、hLF)とHSAの融合タンパク質が、がん細胞の転移に密接に関係する遊走を強力に阻害することを発見した。
hLFとHSAの融合タンパク質(hLF-HSA)は、CHO細胞を用いた遺伝子組換え技術により作製し、がん細胞の遊走に対する効果は、ヒト肺腺がんの細胞株であるPC-14を用いた2つの異なるがん細胞遊走アッセイで検証した。
hLFはPC-14の遊走を促進し、一方、融合タンパク質であるhLF-HSAは、PC-14の遊走をほぼ完全に阻害した。
この作用は、hLFとHSAを同時に添加しても観察されないことから、hLFとHSAとの融合が作用発現に重要であることが示唆された。さらに、このメカニズム探索を目的に、がん細胞の遊走と転移を促進するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の発現に着目して解析したところ、PC-14細胞に対し、hLF処理ではMMP-1の発現が上昇、hLF-HSA処理では抑制した。
一方、MMP-9の発現にはいずれも影響しなかった。
実際、hLFおよびhLF-HSA処理したPC-14細胞にMMPの阻害剤を添加すると、hLFで促進されたPC-14の遊走が完全に抑制されたのに対して、hLF-HSAの作用には影響しなかった。
これにより、PC-14細胞の遊走に対するhLF、hLF-HSAの異なる作用は、MMP-1への発現調節の違いによることが明らかとなり、hLF-HSAはがん細胞への増殖抑制のみならず、その遊走も強力に阻害する可能性が示された。
本研究成果は、国際科学雑誌「BioMetals」オンライン版 に掲載された。