ナノ生命科学研究所とがん進展制御研究所の研究グループは、腸がん由来オルガノイドのモデル研究により、悪性化に逆行する細胞集団が、予想以上の頻度で出現していることを発見した。

がんの悪性化は、遺伝子変異により生存に有利な形質を獲得した腫瘍細胞が、選択的に増殖することで進行する。

しかしながら、遺伝子変異により悪性化形質を獲得したがん細胞が、その形質を維持し続けるのかについては、いまだ十分な解析が行われていない。

研究グループは、4種類の大腸がんのドライバー遺伝子変異導入により発生したマウス腸管がんからオルガノイドを樹立して、サブクローニングおよび移植実験を行い、遺伝子変異により転移性を獲得したがん細胞集団の約30%の細胞で転移性を失っていることを発見した。

また、転移能を失ったがん細胞は、生体内に近い培養条件での増殖率が顕著に低下しており、次第にがん細胞集団からネガティブな選択により排除される可能性を示した。

これにより、従来考えられたダーウィン進化に基づくがん悪性化モデルに加えて、ネガティブ選択による新たな悪性化の維持機構の存在を示し、将来的には大腸がん治療薬の開発に活用されることが期待される。

本研究成果は、『Cancer Science』誌のオンライン版に掲載された。