抗がん剤によるがん治療が、逆にがんの転移 を誘発する場合もあることが分かってきたが、そのメカニズムは不明である。

今回、名古屋大学大学院医学系研究科ベルリサーチセンター産婦人科産学協同研究講座らの共同研究グループは、化学療法に起因する卵巣がんの転移は、Mas 受容体と呼ばれる分子を活性化することで抑制できる可能性があることを見出した。

化学療法で用いられるシスプラチン の副作用で腎臓の機能が低下した場合、本来は腎臓から排泄されている毒素インドキシル硫酸(IS)が血液中に蓄積し、IS の作用によって卵巣がんの転移が促進される解析を行い、シスプラチンを投与したマウスでは腎臓の機能が低下することや血液中の IS 濃度が高くなることが示された。

また、IS を投与した卵巣がんモデルマウスでは腹腔内の広い範囲にがん細胞が拡がっていることが観察された。

さらに、各種のがんの増殖やリンパ節転移に対して抑制的に働くMas 受容体と呼ばれる分子について検討した結果、IS が卵巣がん細胞における Mas 受容体の発現を低下させることが分かった。

また、がんが周囲に浸潤する場合、IS は卵巣がん細胞の浸潤能を上昇させることが分かり、さらに、IS による浸潤能の上昇は Mas 受容体を活性化させることで打ち消されることも明らかになった。

これにより、卵巣以外のがんに対する化学療法においても応用できる可能性が期待される。

本研究成果は Nature Research の科学誌『Laboratory Investigation』の電子版に掲載された。