慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞に異常が生じる血液の疾患で、世界では10万人に1~2人が発症する。
この疾患は、9番染色体上にあるABL1という遺伝子と、22番染色体のBCRという遺伝子が入れ替わり(転座)、2つの遺伝子が融合した異常なBCR::ABL1融合遺伝子が形成されることにより発症し、90%以上の患者でこの遺伝子が確認されている。
今回、近畿大学薬学部医療薬学科薬物治療学研究室と近畿大学医学部ゲノム生物学教室らの研究チームは、慢性骨髄性白血病の治療で利用される「スプリセル」の効果がなくなる原因の一つを明らかにした。
このBCR::ABL1融合遺伝子が原因の慢性骨髄性白血病に有効な治療薬として、BCR::ABL1阻害薬 である「ダサチニブ」が広く使用されているが、約30%の患者では治療の途中で効果がなくなり、がん細胞が再び増大する。
本来ダサチニブで治療効果が得られる慢性骨髄性白血病細胞を元に、ダサチニブが効かない治療抵抗性細胞を作成した。
作成した治療抵抗性細胞では、新たにMOSとTPL2という2つの遺伝子に過剰発現が生じ、ダサチニブ治療下においても増殖することがわかった。
さらに、2つの遺伝子の過剰発現は、がんの生存・増殖に関与するERK1/2というタンパク質を活性化することがわかり、この一連の流れを阻害する薬剤を用いることで、ダサチニブ治療抵抗性細胞に細胞死を誘導できることを明らかにした。
これにより、BCR::ABL1融合遺伝子の変異等に依存しないダサチニブ治療抵抗性の原因が明らかになり、MOS、TPL2及びERK1/2の阻害薬とダサチニブの併用が新たな治療法として有望である可能性が示唆された。
本研究成果は、米国のWiley社が発行する国際的な生命科学の学術雑誌”Cell Proliferation”に掲載された。