糖鎖とは、ブドウ糖などの糖が鎖状につながったもので、タンパク質や脂質などに結合した状態で、細胞膜を覆うようにして存在している。

タンパク質につく糖鎖は、細胞の中で糖転移酵素と呼ばれる酵素の働きによって作られ、ヒトには約180種類の糖転移酵素が存在しており、細胞は状況に応じてこれら糖転移酵素の量や活性を調節し、糖鎖の形を作り替えて機能する。

一方、がん細胞の薬剤耐性のメカニズムの解明と克服は、がんの化学療法を成功に導くための重要課題である。

がん細胞の多剤耐性化に関与するタンパク質として、MDR1遺伝子によりコードされるP-gpが広く認知されており、P-gpはトランスポーターの一種で、ABC輸送体と呼ばれるグループに属して、薬物の体外への排出に関わっている。

P-gpががん細胞に発現することで、抗がん剤ががん細胞の外に排出され、細胞内の薬剤濃度を有効濃度以下に下げることにより薬剤抵抗性を示す。

P-gpはがん細胞の薬剤耐性獲得メカニズムのひとつであるが、その発現誘導に関する分子機序には不明な点が多い。

今回、東北医科薬科大学薬学部 細胞制御学教室・薬物治療学教室・広島大学大学院 統合生命科学研究科らの研究グループは、糖転移酵素のひとつであるGnT-IIIによるがん細胞の薬剤耐性抑制とその仕組みを明らかにした。

糖タンパク質に付加された糖鎖はその品質管理や機能調節など、生体内で重要な役割を果たしている。

GnT-IIIは、バイセクト糖鎖(bisecting GlcNAc)を含んだN型糖鎖を作成し、がんの増殖・転移・浸潤に関わることが知られており、がん薬剤耐性に深く関わっている薬剤排出の輸送体であるP-gpの発現調節に、糖鎖修飾がスイッチの機能として働く分子機序を解明した。

これにより、がん化学療法の難題の一つである薬剤耐性の新な治療法開発につながることが期待される。

本研究成果は、米国の科学雑誌JBCに公開された。