がんが進行して食欲がなくなり、急激に体重や筋肉量が減る「がんカへキシア(悪液質)」は、本人はもちろん、家族、介護者にとっても大きな心理的衝撃となる。
体力や筋力が低下しベッドから起き上がること、トイレまで歩くこと、服を着替えること、食べ物を噛み、飲み込むことも困難になり、患者の生活の質(QOL)が著しく低下し、必要な治療が受けられなくなることもある。
カへキシアにより体が衰弱し死に至るケースはがん患者全体の 2 割に及び、がんの深刻な合併症の 1 つとなっている。
食欲不振と体重減少については 2021 年、我が国において、食欲増進、体重増加の効果が確認されたアナモレリン(商品名エドルミズ)が、がんカへキシア治療薬として承認されるなど少しずつ成果が上がりつつあるが、一方、がんカへキシアの本質であるとされる代謝異常の解明は遅れている。
そのため、筋肉、そして全身代謝の恒常性を保つ上で中心的な臓器である肝臓が果たす役割などカヘキシア発症のメカニズムを解明し、予防、治療法を確立することが期待されている。
今回、愛知県がんセンターがん病態生理学分野、薬物療法部、慶應義塾大学先端生命科学研究所らの共同研究グループは、がんカヘキシアの代謝異常について重要な発見をした。
共同研究グループは、がんカヘキシアの肝臓では、重症度に比例してビタミン B の濃度が低下し、これを利用する酵素タンパク質の濃度も低下していることを見出した。
これにより、がんカヘキシアに対する新たな治療法や予防策を開発する土台となり、がん患者の QOL と生存率の向上につながることが期待される。
本研究成果は、英国科学雑誌 Nature Communications に公開された。