液−液相分離によって形成される分子凝集構造体(液滴)は、「膜のないオルガネラ」とも呼ばれ、細胞内で特定のタンパク質を濃縮することで、より効率的なシグナル伝達を可能にしていることが発見され、近年、その構造や機能の解析が盛んに行われている。

現在までに、がん細胞の増殖を抑制する薬剤として数多くのTKIsが開発されている。

これらTKIsは分子標的治療薬に分類され、少ない副作用で高い治療効果が得られると期待されている。

今回、東北大学大学院薬学研究科らの研究グループは、がん細胞の転移を強力に抑制するTKIsを発見し、そのメカニズムについて解析した。

がん細胞の転移を抑制するTKIsは、共通してシグナル伝達分子であるp62およびNBR1を骨格(コア)とした液滴(p62/NBR1液滴)の形成を促進していだ。

さらに、p62/NBR1液滴が形成されたがん細胞は運動能力が低下して遠隔転移することができなくなった。

一方、p62/NBR1液滴の形成を阻害するとTKIsによる転移抑制作用が消失したことから、がん細胞の転移におけるp62/NBR1液滴の重要性が示唆された。

p62/NBR1液滴を介した新規がん転移抑制メカニズムを発見した成果であり、TKIs既存薬を転移抑制剤として再開発するなど、画期的な転移抑制剤の開発やがん転移阻止戦略につながることが期待される。

本研究成果は、米国アカデミー紀要に掲載された。