従来より研究開発に使用されている株化癌細胞は扱いやすさにより広く用いられてきているが、株化細胞は長期間継代培養することで癌細胞が本来有する遺伝的特性が変化する弱点がある。
今回、ヒト非小細胞性肺癌検体から樹立された細胞株(88種)を培養し、得られた細胞抽出成分とその培養上清を用い、エクソーム、トランスクリプトームおよびメタボローム解析を実施することで、癌の悪性化への関連が示されているNrf2活性関連遺伝子発現に相関する代謝物を新たに同定することに成功し報告された。
Nrf2は、活性酸素種などの酸化ストレスや、親電子性物質によって活性化する転写因子であり、様々な局面で細胞を保護することが知られている。
Nrf2を活性化する物質は、自然界にも数多く見出されており、それらの物質の経口投与によってNrf2を活性化させることが可能なこともわかっている。
そのため、Nrf2が体の中で生体防御に働く仕組みがわかれば、Nrf2活性化剤を薬として利用できるものと期待されている。
新たに同定された非小細胞性肺癌診断マーカー候補となる代謝物は、ヒト血液中からも検出される可能性が考えられることから、今後、未来型医療で期待されている個別化診断への臨床応用が期待される。
また、バイオインフォマティクス技術を駆使した多層オミックス解析が大きく貢献しており、今後のコホートあるいは疾患検体を用いたリスク因子の解析やバイオマーカー探索研究に広く応用されることも期待される。
本研究は1月15日に論文誌Cancer Scienceにオンライン掲載された。