卵巣癌は、婦人科の悪性腫瘍の中で予後の悪い癌種のひとつで、罹患率および死亡率は年々増加傾向にある。
卵巣癌には DNA 複製を阻害する白金製剤と細胞分裂を阻害するタキサン系薬剤の併用による化学療法が有効であるが、治療中に薬剤に対する耐性が生じて効果が低下する。
そのため、卵巣癌における新規治療標的の探索や抗癌剤耐性を伴う難治性癌に対する治療法の開発は婦人科腫瘍の治療において喫緊の課題となっている。
近年、白血病細胞あるいは乳癌、メラノーマなど種々の癌組織において、血管の新生および血管の安定性に関与する因子TIE-1が過剰に発現し、腫瘍における血管の形成に関与していることが報告され、TIE-1は悪性腫瘍の進行や治療後の経過の予測因子となる可能性が明らかになってきている。
今回、TIE-1が卵巣癌細胞の増殖や生存にも関与していることを明らかにし、卵巣癌細胞で TIE-1の量を人為的に抑えると、細胞の増殖や生存に関与する一連の因子であるPI3K / Akt シグナル伝達経路分子の量が顕著に減少していた。
さらに、11種類の卵巣癌細胞株において TIE-1の量を抑えた結果、PI3K の発現量が高い細胞株では細胞増殖が減少し、PI3Kの発現量が低い細胞株では細胞の増殖は減少しなかった。
これらのことより、TIE-1はPI3Kを介して細胞増殖を制御しており、さらにTIE-1 の阻害による細胞増殖の抑制効果は、PI3K の発現量が高い卵巣癌に対してのみ効果的であることが明らかになった。
また、PI3Kの発現が低下している細胞株において、TIE-1の発現量を人為的に高くするとPI3K発現も高くなり、細胞の増殖も促進された。
これにより、TIE-1はPI3K / Akt シグナル伝達経路を介して、卵巣癌細胞の増殖を制御していると考えられた。
本研究成果より、TIE-1はPI3Kの発現が高いタイプの卵巣癌に対する新たな治療標的となり得ると期待される。
本成果は、Molecular Diversity Preservation International (MDPI) 発行の科学誌Cancersに掲載された。