膵臓癌では不安定なゲノムにより多くの遺伝子や染色体の異常が生じているため治療が困難な難治性癌のひとつとされている。

高血圧などに関与するレニン・アンジオテンシン系の一部として機能する(プロ)レニン受容体[(P)RR]が膵臓癌だけでなく前癌病変の段階で、(P)RR の発現が増加しているおり、癌の進展に深く関わっている。

今、正常の膵臓の細胞において、(P)RR の発現が増加することにより、膵臓癌で認められるゲノムの不安定性、すなわち遺伝子や染色体に異常が起こることが報告された。

培養ヒト正常膵管上皮細胞(HPDE-1/E6E7)に対し、永続的に(P)RR が過剰に発現するように遺伝子誘導すると、癌で見られるような核や細胞に変化することが明らかになった。

次世代シーケンサーを使用し遺伝子と染色体を比較すると、 (P)RRの異常発現により全染色体レベルでゲノムの不安定性、すなわち多数の遺伝子や染色体の異常が生じ、癌のように、遺伝子や染色体が正常に機能しなくなる可能性があることがわかった。

また、正常の培養ヒト膵管上皮細胞に(P)RR を発現させると、細胞の増殖スピードが上昇し、これを免疫不全マウスの腎臓に移植すると、癌の特徴である異型細胞を含む腫瘍が形成された。

これらより、(P)RR が膵臓癌を形成する主要な因子の一つであり、膵臓癌における治療法や診断薬の開発において、(P)RR が有効な分子ターゲットになり、今後の新しい診断・治療法の開発が期待される。

本研究成果は、英国の学術誌「Communications Biology」に掲載・オンライン公開された。