転移性リンパ節は、ユニークな構造と生物物理学的特性を有しているため、血管から抗がん剤を注射する一般的な全身化学療法では薬剤の取り込みと保持が十分にできない。

そのため、転移リンパ節での腫瘍増殖を抑制することができず、致命的な遠隔転移を惹起する。

化学療法によって転移リンパ節を効果的に治療するためには、リンパ節内に抗がん剤を特異的かつ長時間滞留させることが不可欠である。

リンパ行性薬剤送達法は、これらの要件を満たし、イメージングガイド下にリンパ節へ薬剤を直接投与する薬物送達方法論であるが、腫瘍増殖によりリンパ洞が閉塞された転移リンパ節には、治療効果が限定的であった。

今回、東北大学大学院医工学研究科腫瘍医工学分野と岩手医科大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座らの研究チームは、生理食塩水よりも浸透圧や粘度が高い薬剤を用いてリンパ節の物理的環境を変化させた条件下での、リンパ行性薬剤送達法を用いた抗がん剤カルボプラチンの薬物動態、治療効果におよぼす影響を検討した。

その結果、浸透圧と粘度が高い薬剤は、リンパ洞の顕著な拡張を引き起こし、リンパ節の構造を変化させることを明らかにした。

また、浸透圧は1,897kPa、粘性は11.5mPa・sの値を中心に至適範囲があり、それ以上では治療効果が著しく低下すること、浸透圧と粘度は腫瘍増殖を抑制する上で重要なパラメータであることがわかった。

この至適浸透圧と粘度の抗がん剤は、がんの種類を問わずリンパ行性送達法への適用が可能であり、臨床的な有用性が期待される。

本研究成果は、Cancer Science誌（電子版）に掲載された。